会場に入ってすぐに目に入る大きな日本地図と赤い封筒はインゴ・ギュンタ–の新作である「Thanks a Million」。お台場の未来館にて展示準備をしていた彼は、3月11日東京で震災を経験しており、また同時に以前から「白砂青松」という言葉に表される日本における海岸線の美しさに大変興味を持っていたアーティストでもあります。美しい日本の海岸線の復興を目指し、「白砂青松」と書かれたカードが日本地図を形作るなか、東北の被災地には赤い封筒に入ったサンクスカードが置かれています。赤い封筒の中には、赤文字と黒文字で書かれたサンクスカードが入っており、袋からカードを取り出してメッセージを読むと、赤い封筒の外からは読むことのできなかった赤文字が読める様になり、より具体的なメッセージが鑑賞者に届く仕組みになっています。赤い封筒の中には松の木の種が入っており、来場者の手によって持ち帰られて育てられることにより、来場者の心の中にはこの作品を通して日本とのつながりができます。カードには「長期的な復興を目指す日本のことを忘れずに、一緒に見つめて下さい、本当にありがとう(Thanks a Million)」と書かれています。
ギュンター氏の作品は、今回の震災で陸前高田市の松林が津波で流され、残った一本の木が復興のシンボルとなっていることにも由来し、また同時に、地下で映像を流しているヨーゼフ・ボイスの「70000本の樫の木」プロジェクト(1982年)とも緩やかに接続しています。
多くの方が赤い封筒が示す意味と、FUKUSHIMAやSENDAI、TOKIOと書かれた言葉によって日本の状況を理解する一方で、多くの来場者が「ステキなアイディアね。」「家の裏に植えるよ。」など、「ありがとう」という言葉とともに日本のことを思う気持ちを伝えてくれます。ある女性は、「自分の子どものため、そして日本のために松を大切に育てます。」とわざわざ声を掛けにきて下さる方もいました。アートを通じて行う震災支援の一つの可能性が提示できた、と感じました。
(レポーター:丸山美佳)